以前友人たちと銅や錫や真鍮を叩いて皿や鉢にしたり、銀で指輪を作ったりする「鍛金ワークショップ」に参加したことがあって、それが思いの外楽しくて。
一枚の金属の板を丸く切って、木型にかぶせて少しづつ叩いて伸ばしていくと、丸みが出てきて皿や鉢になるんですが、その時私は錫で小鉢を作りました。
それでまた何かものづくりワークショップに参加したいなーとみんなで言っていたんですが、あるツテで今回「吹きガラス」に挑戦してきました!吹きガラスはもちろん初めてやったんですが、これまた本当に楽しくてあっという間に終わってしまいましたね。
ということで、今後も(たぶん)ワークショップやものづくり体験に参加するだろうと思いまして、”HANDS-ON WORKSHOP“と題した連載記事にしたいと思います。その第一回目が吹きガラスです!
身の回りにコップやお皿など膨大な数のガラス製品が溢れかえってますよね。でもガラス製品の作り方をしっかり説明できる人ってかなり少ないんじゃないでしょうか。私自身も作っていて「なるほどなぁ〜」の連続でしたので、大まかな製作工程の解説と、完成品の披露をしたいと思います。
吹きガラスの歴史
エジプトのアレクサンドレイアで、宙吹きと呼ばれる製造法が紀元前1世紀の後半に発明された。この技法は現代においても使用されるガラス器製造の基本技法であり、これによって安価なガラスが大量に生産され、食器や保存器として用いられるようになった。この技法はローマ帝国全域に伝わり、ローマガラスと呼ばれるガラス器が大量に生産された。
引用:wikipedia
まず「吹きガラス」って、みなさんがよく想像する竿の先にガラスを付けて、息を吹いて膨らませるやり方。あのやり方っていつからあるんだろう?と思って調べたら、なんと!紀元前から行っている技法なんですね。冷静に考えると2000年以上前からガラスを加工していたって凄いことですよね。やっぱりローマ人はスゲーな!
そして、雑貨屋さんとかに売っているコップや容器など私たちが使ったり、見たりしているガラス製品の9割以上は吹きガラスではなく、「型」を使って大量生産されたものなんです。なので今回私たちが体験した吹きガラスは、型を使わず完全ハンドメイドで作る”ガラス工芸品”ということになります。(そんな大層なものではない 笑) ガラス作家さんたちはこの吹きガラスの様々な技法を駆使して、既製品では出せない形や色や表現を産み出しているんですね。
まずは作業前の説明と、デザイン・仕様の決定
10月後半この日は季節外れの台風が接近してきていて、土砂降りの雨でした。私たちがお邪魔したガラス工房は江東区の某所にあります。実はこの工房は体験など行っておらず、普段は作家さんしか利用できないところなんです。そこを特別なツテを利用してやらせてもらったので、残念ですが工房の名前は伏せさせて貰います…
(余談ですが、墨田区や江東区は江戸切子などガラス加工が盛んでガラス工房が実は結構あります。その中で吹きガラス体験などを行っているところも沢山ありますので、気になった方はご自身で調べてみてください)
工房に入ると窯が数基あって、中では轟々と音を立てて炎が燃えていました。窯が数基あると書きましたが、実は窯は2種類あって、成形中のガラスを熱する窯と、中に溶けたガラスが入っている窯の2つです。
ガラスは成形していると冷えて徐々に固くなってきますので、それを工程ごとに何度も熱して柔らかくしながら作業していきます。その成形途中のガラスをまた熱し直す窯が必要で、主に作業中はこの窯を使います。
もう一つは材料となるガラスが約1200℃で熱されてドロドロに溶けているのが壺に入っていて、それを竿の先に巻きつけて成形していくんですが、それを固まらないように絶えず熱している窯があります。しかも一旦窯に材料の溶けたガラスを入れると、熱し直すのにとてつもない時間が掛かるので、なんと窯は1年中24時間火をつけっぱなしにしておくらしいです!燃料がガスらしいんですが、考えただけでも光熱費ヤバそうですよね…
工房によっては1基しか窯がなくて、どちらの役割も兼ねている所もあるようですが、ここの工房はガラスだね(材料になるガラス)が入った窯が1基で、熱し直す用の窯が4基ほどあり、おそらく熱し直す用の窯は火入れと火消しを毎日しているんじゃないでしょうか?(あくまで推測です)
作業を始める前に、吹きガラスでは様々な工具を使うんですが基本的な工具の使い方や持ち方、そして火傷や怪我をしないよう注意事項をしっかり聞きます。
今回はみんなで同じものではなく、それぞれが作りたいものを作るということだったので、簡単なデザインを紙に描いていきます。ちなみに今回は紹介してくれた作家さんが一人いて、その人がみんなの作業を見てくれたのですが、その他に工房のアシスタントの方が2名付いてくれて作業の補助(というかほとんど 笑)を手伝ってくれました。
座りながら作業していくんですが、その作業台を「ベンチ」と言うらしく、今回そのベンチ2つをお借りしたので、2手に別れての作業となりました。なのでアシスタントの方もベンチ1台につき1人付いてくれて、さっき描いたデザインを見せると「こうするとこの形になりますよ」とか「ここはこうしないと難しいですね〜」など一緒に考えてくれるのでとても助かりました。
デザインが固まったら、色や模様を決めていきます。全体に色を付けたり、色のスポットを付けたい場合は「フリット」と呼ばれる粒状やパウダー状の色ガラスを使います。他にも線の模様を付けたい場合は「ケーン」と呼ばれる棒状の色ガラスを使います。
基本的には吹くガラスは全てクリアのガラスで、色や模様を付けたい場合はクリアのガラスにこのようなフリットやケーンを付けていくことになります。
それではデザイン・仕様が決まったら実際吹いていきます!
実際にガラスを吹いてみる
作業工程をイラストで簡単にまとめてみました。①から順番に写真を混ぜながら説明していきます。※写真はひとつの作品ではなくみんなの作品がごちゃ混ぜになっています。あしからず。
①まずは吹き竿を「ブローパイプ」と言いますが、ブローパイプの先に必要な分量のガラスだねを巻きつけていきます。
②色や模様を付ける場合はフリットなどをガラスに付けていきます。(この写真の作品は全体を黒っぽくしたので、ガラス全体に黒色のフリットをまぶしています)
③徐々に空気を吹いていき、吹いては熱してを繰り返しながら希望する大きさになるまで膨らませていきます。その間絶えずガラスをを回転させて、濡れた新聞紙などで形を整えます。
④「ジャック」と呼ばれる先の尖ったトングのような道具を使い、最終的に”口“になる部分をすぼめていきます。
⑤今度は口の反対側の底になる部分を「パドル」と呼ばれる木の板を押し当てて平らにしていきます。ここをちゃんと平らで床と直角にしないと立たせた時に傾いていたり、カタカタ動いたりしちゃいます。
⑥続いて「ポンテ」と言って別の竿の先に溶けた”ガラスだね”を付けたものを、先ほど平らにした底の中心に接着させます。
⑦ポンテを底に接着させたら、④ですぼめた口の部分に水を数滴垂らします。そうしたらジャックなどの工具で元の竿をガチン!と叩くと、パキッと綺麗に割れるので元から付いていた竿を外して、ポンテの付いた竿に入れ替えます。
先ほどは底を作る作業をしましたが、今度は反対に口を広げる作業をするので、向きを変える為にこのような方法をとります。
⑧、⑨ジャックやその他の工具を使いながら口の部分を広げていき、希望する形にしていきます。
⑩形ができたらヤスリや刃物の先でポンテとガラスの接着部分を叩いたり削ったりしてガラスと竿を切り離します。そうしたら接着部分がガタガタになってしまうのでバーナーなどで熱してなじませます。
⑪その後急激な温度差によってガラスが割れないように、徐々に温度を下げていく「徐冷庫」に丸一日入れておき、外気と同じ温度まで下がったら完成です。
完成した作品
どうでしょう!良い感じじゃないですか?
何作ろうかなーと考えた時に、Instagramでもアップしたんですが今年はヒヤシンスとチューリップの水栽培にトライしてみようと企んでいて、水栽培用に”バルブベース“を作ってみました!
バルブベースなのでキュッと首になる部分が必要じゃないですか。製作前は「初心者だから難しいかも…」って言われていたんですが、我ながら上手くできたなと思っています。しかも試しにヒヤシンスの球根入れてみたら
あらまぁピッタリ!
模様は粒の大きめなフリットを使ってスポット模様にしてみました。青と紫の中間のような色味が可愛くてメチャ気に入っています。
まとめ
参加した人数が7人で、トータル2時間の一人30分が持ち時間だったんですが、もうあっという間でしたね!今度もしやる機会があれば一人1時間〜1時間半くらいは最低欲しいです。しかも初めてなので色々な加減が手探りだったんですが、今度は感覚でわかっているのでもっと綺麗に作れるはず!
初めて吹きガラスにチャレンジしましたが、まず底の部分を作ってから竿を入れ替えて口の部分を成形するということを初めて知りました。あとは高さのあるものは竿を振り子のように振って遠心力で伸ばしていく方法など、なるほど!と思うことが沢山あって面白かったです。
例えば何の変哲のないコップを吹きガラスで作ろうと思うと大量生産とは違い、かなりの手間が掛かることがわかりました。そして何よりこの日は雨が土砂降りで、気温も低かったので工房の中はそこまで暑くなかったんですけど、それでも窯を目の前にすると熱気で皮膚がピリッとする感覚はありました。夏場は50℃余裕で超えるらしいです…マジでクレイジーですよね。
こういう経験をすると改めて工芸作家さんに対してリスペクトの気持ちが強くなりました。
所々歪んだりして不格好な見栄えですが、ハンドメイドならではの味があってもう愛着がエグいです。何と言っても世界に1つだけですからね。今度は満開のヒヤシンスが乗った写真をお見せできればと思います。
都内に吹きガラスを体験できる工房は意外とあるようなので、寒くなるこれからの季節にみなさんも体験してみてはいかががでしょうか。
PS
水栽培が終わってもこういう使い方もありですよね…
追記
掲載された写真は全て前回の記事で紹介したレンズ「MINOLTA NEW MD 50mm F1.4」で撮影したものです。工房内で撮影した写真に関しては、リサイズ、トリミングだけしていますがその他の調整は行っておりません。色乗りもボケ味もなかなか良いですよね。参考までに。