さてさて、今は梅雨の真っ只中。雨が続いていますね〜。かれこれ2週間近く天気が悪く、外に出している洋ランが根腐れしないか若干心配になってきていますが、今回はサボテンのお話です。
このブログやSNSでも書いた通り、去年の夏と冬にサボテンの実生を行いましたが、その実生サボテンが少しずつではありますが大きくなってきましたので、「接ぎ木」にチャレンジしてみました〜。
実験を兼ねて今の時期に #実生 。(単に蒔きたいだけという噂も…)今回は #サボテン オンリーで、#コピアポア や #エリオシケ など南米が殆ど。他は #銀冠玉 や #晃山 などを蒔きました。用土や容器もいつもと違う方法に。更に寒くなる季節なので発砲スチロール箱による保温・保湿効果を検証してみます pic.twitter.com/XOf0ocmqvN
— TOKYO PENTHOUSE (@tokyo_penthouse) 2018年10月13日
接ぎ木ってなんだろう?あ、いやヒッキー風に言えば
「接ぎ木ってなんなん?」
と思う方もいらっしゃるでしょうから、詳しくは以下で。
接ぎ木とは?
接ぎ木とは園芸的・農業的に広く行われている手法で、庭木育生の促進・助力、果樹の成熟促進等のために行われます。サボテン栽培における接ぎ木の意義は、以下の3点に大別されます。
1.生長の促進:生長の遅いサボテンを生長旺盛な台木の力を借りて早く育てる。
2.育生困難種の保存:正木(その種類自体の根で生育しているもの)では根が腐りやすく、維持の難しい貴重種を、接ぎ木することによって保存する。
3.腐敗した株の助力:根腐れが進行して株の半分以上を胴切りし、残った部分を挿し木しても発根の可能性が低い場合は、接ぎ木によって助ける。
引用:まったりサボテン育成
1度は見たことありませんか?棒のようなサボテンの上に丸いサボテンがチョコンと乗っかっているのを。あれなんなんだろう?って思っていた方も少なくないかと思いますが、あれは接ぎ木と言って、異なる種類のサボテンの切断面をピタっと合わせることで合体させ、台木(ベースになるサボテン)から栄養や水分を送って穂木(乗せた方のサボテン)を成長させる園芸テクニックの一つです。
別にカッコいいからとか、そういう理由でやってる訳ではなく、(そういう理由の方もいるかもしれませんが)主に上記のような理由で行っています。それぞれ掘り下げてみましょう。
「1.成長の促進」は、簡単に言うと早く大きくしたいんです。単刀直入過ぎますが(笑)、本当その通りで、例えば南米の人気サボテンといえば黒竜丸や孤竜丸に代表される、“コピアポア”という種類のサボテン。
自生地では、白くシワが寄った肌に太くて黒いトゲを生やして、めちゃ厳つい風貌のサボテンなんですが、成長スピードがかなり遅く、その厳つい風貌になるまで気が遠くなる時間が必要なんですよね。国内で実生から育てたものも売ってはいるんですが、栽培環境も関係するんですが中々自生地のような風貌にはなりません。なので未だに山採りの輸入株が高値で取引されている状況です。
そんなこともあり、大株になるまで待っていたら人間の人生などあっという間ですから。成長が遅い種を早く大きくするために、台木に成長の早いサボテンを使い、パワーをおすそ分けしてもらって穂木を早く大きくさせるという方法をとっています。
また、斑入りの希少な種を実生した場合、いち早く子供に斑が入っているかどうかを確認する為に接ぎ木するという場合もあります。
「2.育成困難種の保存」ですが、サボテンの故郷は南北アメリカ大陸の広範囲に生育していて、様々な環境で自生しています。なのでどーーーしても日本の気候に合わないものも存在しているんですよね。ただ、栽培家とは欲深い生き物です。そういった種を日本で育てたい!と考える人もいるので、そういった場合接ぎ木をすれば栽培することが可能になるんです。
または、人間の手によって接ぎ木をしないと生きられない種もいます。代表的なのは真っ赤や真っ黄色などカラフルな色をした”緋牡丹“。ホームセンターや園芸店でよく売られていますが、これは元々パラグアイ原産の赤いギムノカリキウムを日本で改良したもので、改良によって絵の具で塗ったような真っ赤なものが産み出されたんですが、葉緑素をもっていないので自ら光合成を行えず、接ぎ木をしないと生きられません。主に「三角柱」という柱サボテンに接いでいることが多いです。
「3.腐敗した株の助力」とは、まぁ上記の説明通りなんですが、サボテンを栽培していて失敗する殆どの原因は、水のやりすぎや冬場の水やりで起こってしまう根腐れ。根腐れを起こした場合、腐った根を切るか、ひどいときには胴体の方も腐らせて切らなければいけないことも。そんな時にも接ぎ木が有効で、サボテンをスパッと切ると、中心に「維管束」という水や養分の通り道があるんですが、そこが残っていればお互いの維管束同士を合わせることで合体するので、生き延びる事ができます。十分に回復したところで台木を切って接ぎ降ろし(台木を切って穂木を再び土に植え込むこと)すれば再び元と同じような姿を維持することができます。
以上ような理由で接ぎ木を行いますが、今回のケースはどれに当てはまるかというと、1の成長の促進になります。通常自根で栽培するなら10年後に見ることができる姿を、接ぎ木をすれば2~3年で見れる。「接ぎ木はサボテンのタイムマシン」と言われることがありますが確かにその通りですね。
そのようなことから実生1年未満の小さな幼苗をなるべく早く大きくしたいという意図があり、特に南米系の成長の遅い種をできるだけ早く成長させるのが今回の目的です。それと実生の銀冠玉が50程発芽し、育成中なのですが、中にいくつか斑入りらしきものがあるので、それをある程度までの大きさにしてから確認することも目的の一つです。
台木の種類
有り難いことに、これまで先人たちによる「サボテン接ぎ木の歴史」の中で、トライアンドエラーを繰り返しながら台木に向く品種や相性が良い品種などが数多く試されてきました。その中でも台木に向いていると言われる種をいくつか紹介したいと思います。
・三角柱
三角柱は成長速度が早く、殆ど穂木との相性を選びません。今回のような実生苗を接ぐのにも適しています。しかし台木の寿命が短く、かならずどこかのタイミングで接ぎ降ろしをしなければならないので永久台木とは言えないでしょう。
・袖ケ浦
こちらも台木の超メジャー種で、こちらも成長速度が早く、穂木の花つきが良くなったり、棘もよく出てきます。寒さにも強く丈夫な性質をもっているので、オールマイティーに活躍してくれます。若干穂木の相性が悪いものもあるようですが、袖ケ浦に接げばまず間違いないでしょう。
・竜神木
竜神木も穂木を選ばず接ぐことができ、尚且寿命も長いので穂木と同じくらい生きることから永久台木として重宝されています。ただ他の台木に比べ成長速度が遅いので、実生からというより主にカキ仔を接ぐのに向いています。一番安定性に優れている種。
・短毛丸
短毛丸は他の台木と違い、玉サボテンです。とにかく丈夫で、寒さにも強いので接げばしっかり育ってくれます。穂木との相性も良いです。しかし仔を大量に吹くのでそれを取り外さなければならないのと、形状的に柱サボテンと違って、接ぐ時や、降ろす時はそのまま植え込めないので、若干加工が必要となります。
・ウチワサボテン
ウチワサボテンは主に紅花団扇が使われることが多いようです。よく露地栽培されていることからもわかるように、寒さに強く成長も旺盛で、穂木の成長速度も早いです。ただ虫が付きやすかったり、短命なので永久台木には適していません。また相性も割とはっきりしているようで、エキノプシスやロビビアとは相性が良く、ギムノカリキウム類はあまり良くないようです。ただ実際試してみないことにはわからないことも多いです。
・キリンウチワ
今回使用した台木のキリンウチワです。詳しくは下記にまとめました。
キリンウチワの特性
キリンウチワ(麒麟団扇)はウチワサボテン亜で属名の”ペレスキオプシス“は「木の葉サボテンに似た」という意味です。
木の葉サボテンとは、杢キリンなど普通の植物のように葉っぱを持っていて、最も原始的なサボテンと言われています。一見するとサボテンには見えませんが、茎には立派な棘が生えています。
その木の葉サボテンと同じようにキリンウチワも葉を持つサボテンで、こちらもパッと見サボテンには見えませんよね。棘もあるんですが、針のような棘ではなく細くて毛のような針が生えていて、刺さると中々抜きづらくて厄介です。上の写真が入手直後のキリンウチワ。カット苗で購入しました。
キリンウチワの台木としての特性は、まずとても成長スピードが早く、梅雨明けの暑い時期からビックリするくらいグングン伸びます。そのパワーは穂木にもしっかりと伝わり、種によっては実生したての苗が1年で3~4cmほどの大きさに。それと、相性もそんなに気にしなくていいとのことですが、有星類(アストロフィツム)があまり良くないという話もありますが、実際試してみないとわかりません。
何より実生して1年未満の小さい苗を接ぐのにとても適しています。実生して間もない苗は直径5mm程なので、例えば大きいく太い柱サボテンに接ごうとすると、台木の切断面が乾燥すると表面が窪んできたりシワが寄ったりして、広い面に小さい苗を固定させるのが難しいのですが、しかしキリンウチワは穂木とほぼ同じ直径なので、切断面同士を合わせるだけで、特に重りを乗せることもなく毛細管現象でピタッとくっついてくれます。後は乾燥させないように注意するだけ。
逆を言えば、そこそこ大きくなった穂木の接ぎ木には向きません。先を鉛筆のように尖らせ、ブスッと穂木に差し込む方法もあるのですが、(杢キリンを台木にする場合はそういう方法を取ります。)台木と穂木のバランスの関係や、成功率を考えるとあまりオススメできません。
そしてキリンウチワの最大の特徴が、CAM型光合成と、C3型光合成の両方を行っている点です。
サボテン類の多くは基本的にCAM型光合成を行って生きています。一般的に植物は昼間に葉の気孔を広げ二酸化炭素を取り込み、日光を葉緑素で受けてデンプンなど養分を生成(C3型光合成)するのですが、CAM型の場合昼間水分を逃さないように気孔を閉じ、夜間に気孔を広げ二酸化炭素を取り込みます。そこでリンゴ酸を合成し、体内に蓄え、また昼間になると蓄えたリンゴ酸から二酸化炭素を生み出して養分を生成するという仕組みになっています。
CAM型光合成を行う植物は、サボテンをはじめアナナスやランなど着生植物のような水分が乏しい環境で生きる植物が多いのですが、キリンウチワはそのCAM型とC3型両方を兼ね備えたサボテンなので、ケースに応じて効率よく養分を生み出し、その生み出された潤沢な養分によって穂木が早いスピードで成長してくれるのです。
※キリンウチワの光合成についてはスーパーサボテンタイムさんのブログに詳しく書かれています。
しかし欠点もあり、キリンウチワは寒さにとても弱く、冬は5度を下回るとガクッと成長が止まり、葉が枯れ込んできたりするので要注意。
いつも通り前置きが長ーくなってしまいましたが、それでは実際接いでみましょう!
実際やってみた
準備するもの
- 台木(キリンウチワ)
- 穂木(今回は5種類のサボテン)
- カミソリ(または新品カッター)
- 園芸用支柱
- ラン用の茎止めクリップ
こちらが今年の春から植え込んでいたキリンウチワ。少し暖かくなってからグングン成長してすごい長さに。
台木に選んだ実生サボテンたち。5種類選びました。
まずは、ヘキラン錦×ランポー。50粒撒いて30粒くらい発芽したのに、暑さ寒さに次々と溶けていき、今ではこの数…。10本未満にまで減ってしまいましたが、この真ん中の斑が強く出てるものを接いでみます。
次は冬に撒いた銀冠玉。日本の趣味家さんの自家採取種なので発芽率が良いいです。やっぱり種は新鮮なものに限る!こちらは錦ではないんだけど、いくつか斑が入ってそうなのがあるので、そいつを接いでみようかと思います。
次は南米サボのEriosyce esmeraldana / エリオシケ・エスメラルダナ。和名は黒羅漢。小型のサボで、頭はゴツゴツとしたコブがあり、紫・深緑の肌色をしています。基本的に小型の植物フェチなので成長が楽しみ〜。
次も南米のコピ。Copiapoa coquimbana / コピアポア・コキンバーナ。和名は 竜爪丸。コピの中では植物専門店やサボテン園などでよく見る種。輸入株だと黒竜丸のような厳つい風貌がカッコいいですが、栽培品だと中々同じ雰囲気を出すのは難しそうですね。結構成長も早いようなので楽しみです。
最後もコピで、Copiapoa chaniaralensis / コピアポア・チャニアラレンシス。和名は加奈留玉(たぶん)。情報が少ないので詳しいことは全然わかりません。和名も合ってるかどうか…。写真も色々出てきてどれが本物かよくわからないんですが、何にせよコピは成長が遅いので、接ぎ木によって大きくなってくれると、どんな風貌をしているのかを確認できますよね。
こちらはカミソリ。切断面を綺麗に水平に切るため、切れ味鋭いカミソリにしました。カッターでもいいけど、実生サボテンは小さいので、刃の薄いカミソリの方が良いんじゃないでしょうか。医療用の使い捨てメスを使う方もいるようですが、私は安いカミソリの替刃で。
こちらはあったら良いなグッズで、ランに使っていた支柱と、胡蝶蘭のステムを誘引したりするクリップです。穂木が大きくなるとバランスで傾いてくるのを防ぐのと、穂木を台木に置く時に静止してたほうが乗せやすいから。あとは接いですぐは乗っかってるだけで癒着してないので、何かの衝撃でポロッと落ちてしまわないように固定していたほうが良さそうと思ったからです。
それとクリップを用意したのは、ビニタイで支柱に固定するよりつまむだけなのでとても便利だと思ったからで、実際すっごい便利。おすすめです。
まずは台木の柔らかい所を探してカミソリでスパッと切ります。ただ私の場合失敗したなーと思ったのが、台木が成長し過ぎて大分上の方じゃないと、茎が結構硬かったですね!いい感じの高さで切ろうと思ったのに、茎固っ!ってなってスパッと切るのが難しかったです。
キリンウチワを植え込んで、成長してきたなぁと思ってからダラダラと放置していたのがいけなかったですね。まぁそれでもカミソリを当てて巻き込むように切ると綺麗に切れました。
あと素手で触ると細い棘が刺さってしまうので気をつけてください。
そうしたら支柱をいい具合の高さで切って、台木の脇に差し込んでクリップで固定します。これでグラグラすることもなくなりました。
そして切った方のキリンウチワですが、少し切断面を乾かしてから植え込むとまた根を出して成長しますので、こうやって台木を増やしていきます。
さて次は穂木の方をカットしていきます。ズボッと苗床から引っこ抜き、スパッと輪切りにしますが、根の部分ではなく胴体の部分をカットしてください。カットしたら、もう一度薄くカットして切断面をフレッシュにします。一番良くないのが切断面がガタガタになってしまうことなので、スッと引きながら平面になるようにカットしてください。
カットしたら直ちに台木に乗せます。この時気泡が入ったり、お互いの切断面が平面でないと浮いてしまうので、そうなると確実に癒着しないでしょう。お互いに中心にある維管束を付けるので、必ず中心に置いてください。
台木、穂木どちらも水分があるとピタッとくっつくので、無理に押さえたりせず乗せるだけで大丈夫です。うん。直径も殆ど同じでちょうど良いですね。
銀冠玉
Copiapoa coquimbana
Eriosyce esmeraldana
Copiapoa chaniaralensis
さて、穂木を全て乗せたら最後に、乾燥しないようこのような帽子を被せてあげます。普通は光も抑える為に紙で作るらしいんですが、梅雨だしずーっと天気悪いのでこんなフィルムみたいなので作りました。中の様子も見れますしいい感じです。
あと、乗せると見た目が似ているものはわからなくなるので、必ず札を立てるなり、印を付けるなりしましょう。
まとめ
さてこれで全て終わりですが如何だったでしょうか?はじめの説明が長くなってしまいましたが、実際の作業はシンプルで簡単なので、すーぐ終わります。
これが袖ケ浦や竜神木の接ぎだと、台木と穂木をある程度の力で押さえなければならないので、糸かけたり、重しを乗せたりしなければいけないのですが、これは本当乗せるだけですから圧倒的に楽です。
後はどのくらい成功してくれるか。もちろん全部成功してほしいですが、5本中3本成功したら”良“じゃないですかね。自分としては銀冠玉は綺麗な斑が出てる可能性があるので、成功してほしいなぁと思っています。
そして接いでから今は数日経っていて、見てる限り全て癒着してるようには見えますが、ちゃんと接げたか確認できるまで1ヶ月後程掛かるでしょうね。待ち遠しいなぁ。
最後に、接ぎ木が楽しくなってしまって、試しに目の前にあった墨烏帽子に月世界を接いでみたんですけど、どうですか?しっかり癒着しているように見えますよね。適当にやったけど意外と成功しそう…。
とっても簡単ですので、実生苗がある方はこの記事を参考に是非チャレンジしてみてくださ〜い。