前回の長々とした「きっかけ編(前置き)」からの続きで、先日実際行った種蒔きを解説していきたいと思います。
お約束なんですが、この実生の方法はあくまで私個人のやり方なので、真似される方は
自己責任でお願いします
はい。まずは恒例の儀式でした。でもこれ本当に重要で、やっぱり正解がないことですし、長年園芸をされていて、毎年のように実生を行っている人でも「今のところこのやり方が自分には合っている」っていう言い方をされているんですよね。これはもう実生に限らず植物の栽培方法全てに言えます。
植物の育て方は一つじゃない
3年間この方法でいい感じだったけど、4年目から全く駄目みたいなことは平気で起こり得るし、逆にこの方法は長年ご法度だと言われてきましたが、本当はこの方が良いんですよ。みたいな記事を発見したりすると、もう…結局どないやねん!って縁も所縁もない地域の言葉でツッコんじゃったりします。自分もやり始めで色々調べている時はプンスカ憤慨していました。
でもやっぱり自分が設定した成果(例えば沢山花を咲かせるとか、できるだけ早く大きく、太くするとか)を左右する要因が膨大にありすぎるし、あくまで生き物を育てるということなので、一概にこれが正解ですと言えないんですよね。いくらでも理由を付けられる。これ正解だから!って言い切っている情報があったら逆に怪しんだほうがいいと思います。
なので実生だったら色々な種類の種を撒いてみて、自分なりに改良を重ねていくしか方法はありませんし、その手間をかけていく覚悟が無いとやらないほうがいいかもしれませんね。
ただ!ここまで能書きタレてきましたが、一方で自分たちが思ってる以上に植物たちは強いので
意外となんとかなります
2度目のどないやねん。
やっていくとわかるんですが、初めの頃は土とか色々自分で配合をこだわったりするんですけど、やってるうちにあー買ってきたものでもあんまり変わんないなって感じてきます。もちろん色々と探求していく姿勢は否定しませんが、私たちは植物と会話できないので、私たちの思惑を横目に植物たちは勝手に成長していきます。
なので確実なのが、
- まず自分が良さそうだな、便利だなと思った諸先輩方の方法をそのまま真似る。
- その方法を軸に自分の栽培環境や生活リズムにあったやり方に改良していく。
しかないと思います。無理なくやられるのが一番です。
やばい!また前置きが長くなってしまいましたが、今回私の方法をお伝えしますが、ごくごく一般的だし皆さん普通にやられている方法(むしろこの方法しか知らない…)なので、初めて実生をやられる方は参考にしてみて下さい。
やっと本題 用意するもの
今回は”難物”と呼ばれる高地性のアガベ”ユタエンシス”の種を蒔こうと思います。高地に生息するアガベなので、寒さには強いんですが夏場の管理が難しいらしいので実生から育てて環境に適した株に育てていこうと思います。
用意するものは
- 種
- 土 (赤玉土、水はけの良い市販の土、種まき用土の3種類)
- 苗床になる容器 (蓋付きの内側に水切りザルの付いた二重容器)
- スコップ (土入れ)
- ピンセット
- メネデール
- ホーマイ水和剤(もしくはベンレート)
- スケール(1g単位まで計れるもの)
- 霧吹き(スプレー)
- 熱湯
- ※内外温湿計
※はあれば便利なもの
下準備
種はヤフオクで落札しました。ユタエンシス150粒が¥1,000でした。めちゃ安いですね。ただ詳しい情報は皆無でどこから輸入されたかとか、いつ採取されたかとかわかりませんでした。パッケージにAgave utahensis x150としか書いていません。安いしまぁ幾つか発芽するだろと思って落札しました。今回はそのうちの120粒を蒔きます。
まずは”播種”(種まきのこと)する前の下準備で、発根活力剤で有名な「メネデール」を100倍に薄めた希釈液(1Lの水に対してメネデール10ml)に半日種を漬け込みます。これは固い殻を持った種をふやかすことで発芽しやすいようにする為です。そこにメネデールに漬けるのはおまじないのようなものです。発芽率は良くなると思います…。たぶん。私は毎回使っています。漬け込む時間も播種する前日の寝る前に漬ける感じです。そこまで漬ける時間にこだわりはありません。自分は水に漬けないなーって人もいっぱいいます。
容器
苗床にする容器はこんな感じのものです。蓋付きで、内側が水切り(ザル)の二重構造の容器です。色々と調べているうちに100均の同じ構造の”野菜蒸し器”を苗床に使っている方がいて、おお!っとかなり便利そうなのでそのまま真似しました。今回は数が多かったので大きい容器を用意しましたが、20粒程度であればいつもは100均のやつを使います。この容器のどういうところが便利かというのは後ほど書きたいと思います。
土
赤玉土
市販の「山野草の土」
市販の種まき用土
次に種を蒔く土ですね。私は3種類使います。まず普通の赤玉土の小粒で、ホント一般的なものです。
続いては市販の「山野草の土」です。これは水はけが良ければ軽石とか鹿沼土とかで全然良いんですが、混ぜるのも面倒くさいので私は市販のものを使っています。とにかく水はけが良い土です。
最後に市販の種まき用土です。これはとにかく軽い土が良くて、ピートモスやバーミキュライトなどを混ぜてもいいんですが、結構配合が難しいです。そして赤玉などにピートモスを混ぜたりしたこともあるんですが、粒立っている土の間にピートモスが入り込んで、水を含むとカッチカチに固くなってしまうんですよね。なので今は市販のものをそのまま使っています。
苗床作りとその理由
では育苗容器にこれらの土を入れていくんですが、下の図のように入れていきます。
まずは赤玉土と山野草の土をざっくり5:5くらいで混ぜます。その混ぜた土を容器の内側の水切りの方に入れます。そして土の総量に対して1/3程度の種まき用土を混ぜずに上から被せます。
なぜこのような土にするかというと、まずアガベだったり多肉だったりは、乾燥地域で育つものが多く、基本的に水はけのいい土で育てます。しかし実生の場合、種が発芽して殻を破り根を土に降ろすんですが、赤玉などは粒立っていて重いんですよね。発芽したばかりの弱い根が土に潜ろうとするんですが、重い土だと潜れず跳ね返ってきてしまいます。
なので上の部分を軽い種まき用土にする事で、根を潜りやすくしています。また、株が大きくなると体に水分を貯められるのですが、幼苗の時はある程度土に保水性がないと水分が不足しがちです。その為種まき用土は水はけは決して良くないので苗床の保水に一役買っています。山野草の土に赤玉土を混ぜるのも、同じ理由で保水性を高める為です。
そして先述しました、このような蓋付き二重の容器を使う理由なんですが、上の図見てもらったらわかる通り、”腰水”をやる為なんですよね。では腰水とはなんぞやってことですが、発芽したばかりの幼苗は、根は細く短くて体を支えるほどではありません。そこへ普通の植物のように上から水をジャーってかけちゃうとバタッと倒れちゃいます。さらに幼苗はいわば人間の赤ちゃんと同じでデリケートな存在です。水が掛かった状態で日光を浴びるとスポット効果で焼けてしまう可能性があります。
そういったことを回避する為に、土をある程度水に浸かった状態にして、上からではなく下から水分を吸い上げるようにします。それが腰水です。このような二重容器だと外側の容器に水を貯めて、内側の水切りに土を入れて浸せるのですっごい便利なんです。水がなくなれば隙間から水をチューって補充すればいいので。そして発芽にはある程度の温度と湿度が必要です。苗床を乾かしてはいけないので蓋にいくつか穴を開けて閉じておけば保温保湿も完璧です。
上の写真が実際の100均の野菜蒸し器です。種はアガベのパリーですね。
初めの頃は苗用の小さいポットが何個か連なったやつに土を入れて、トレイに水を張って腰水にして、保湿にラップを被せてました。もちろん同じ事なので問題なかったのですが、大きくかさばるし、移動させるのも大変でした。100均の容器にしてからはかさばらないし、発芽までだったら重ねてスタッキングもできちゃいます。
さらに、ある程度苗が大きくなると腰水をやめるんですが、(これは結構人それぞれ。半年〜1年は腰水で管理するっていう方もいます) 外側の容器だけ外して水切りだけにすればスリット鉢と同じで通気性も良くて根腐れも起きにくいです。
いやーー100円なので安いですし、管理しやすいのでこれ考えた方はホント天才ですね。がっつりパクらせて頂きました。土のレイヤー構造も他のブログを参考にさせて頂いているので、先人たちの知恵で成り立っています。
熱湯消毒
図のように容器に土を入れたら、やっと種まきだ!と思いきや、まぁこれもおまじない程度に考えて貰えればいいんですが、土に熱湯をかけて消毒します。やらないよっていう方もたくさんいますし、逆に消毒で鍋で土を煮たり、フライパンで土を煎る方もいます。(私もガガイモ実生の時に出品者の方から消毒しっかりして下さいと言われたので、フライパンで土を煎った事あります) やらないよりやったほうがいいかな位にとらえて下さい。
そしてここでもこの容器にした利点があるんですが、100均の容器はレンジで使う”野菜蒸し器”なので、耐熱性が備わっているんですよね。なので熱湯ブッカケても溶けたりしません。素晴らしい!
全体が何となく浸るくらいの量の熱湯をかけます。10分程浸したら熱湯から水切りを上げて土の熱を冷まします。
ホーマイ水和剤の消毒液作り
熱湯を浸した土が冷めるまで、違う準備に取り掛かります。
さらに種を消毒する為に「ホーマイ水和剤」という薬品で土と種を消毒します。
※ホーマイ水和剤は農薬ですので、使用や処理に関してはメーカーの指示、パッケージに記載されている方法を必ず守りましょう。間違っても口に入れたりしないよう十分注意して下さい。
さて、また育苗容器の図を見てもらうと、腰水に(ホーマイ希釈水)と書いています。このホーマイ(粉末)を溶かして希釈水を作り、それを後ほど腰水に使用します。希釈水は1000倍で作ります。
1Lの水に対して1gのホーマイです。それで1000倍になりますので、キッチンスケールなど使って計って下さい。
そして作った希釈水の一部を霧吹きに注ぎます。(薬品入れたので霧吹きを他に使い回さないで下さい。100均などで専用のものを用意してください。) 作った消毒液は霧吹きと腰水用に分けられました。最初は白濁していますが、日が経つと透明になっていきます。
ちなみにホーマイは近くのホームセンター5〜6つに問い合わせましたがどこも置いていなかったので、Amazonで注文しました。コメリとかならあるかも…?
やっと播種
メネデール希釈水に漬けておいた種をピンセットなどでつまみ、土の上に等間隔に並べていきます。その際種によって違うのですが、覆土(土を被せること)はしません。私の場合軽く土にくぼみを作って、その上に置いていく感じです。ズボッと入れたりはしなくていいです。
ホーマイで消毒
種を土に並べ終わったら、先程の霧吹きに入れた消毒液を種の上からまんべんなく吹きかけて下さい。
そうして残りの消毒液を外側の容器に注いで、内側の水切りをセットします。その時の腰水の量は水切りの底面が5mm〜1cmくらい浸かる程度です。あまり量が多いとビッチャビチャになっちゃいますからほどほどに。蒸発して腰水が減ったら隙間から水を補充して下さい。この時は真水でいいです。
この消毒は結構大事で、発芽まで容器の中が温度と湿気でかなり蒸らされるようになります。そうなると種の状態次第なんですが、種が菌を持っていたりすると糸カビが発生して蜘蛛の巣張ったようになっちゃいます。そうなると発芽は難しいので、他の種に移る前にその種は取り除いて下さい。
種まき完了
蓋を閉めたらこれでやっと播種(種まき)は完了です!
ここからは発芽するまで待ちます。いくつくらい発芽するでしょうか。楽しみですね。
私はデジタルの温度と湿度が計れる温湿計を使っています。そしてこの温湿計はリセットするまでの最高・最低温度と最高・最低湿度を計ってメモリーしてくれます。さらに1mくらいのコードの先にセンサーが別で付いていて、そこの温度も計ってくれます。なので私はセンサーを容器の蓋の穴から差し込み、容器内温度も測定しています。結構便利なのでおすすめです。
まとめ
やーーっと解説終わりました…。長かった。前置きで1000文字近くありましたからね。これはいかんですね。もっと簡潔に書けるよう工夫します。
では実生の解説おさらいします。
- 播種する前日の夜(当日の朝)にメネデールの100倍希釈水に種を漬け込む。
- 赤玉土と山野草の土と種まき用土を用意し、赤玉土と山野草の土を5:5で混ぜる。(赤玉、鹿沼土、軽石ミックスや、市販の水はけの良い土でも可)
- 蓋付き二重容器の内側の方に水はけの良い土を入れて、その上から土総量の1/3程の種まき用土を被せる。
- 湯を沸かし、土の上から熱湯を掛けて消毒する。10分程浸したらお湯を捨て、冷ます。
- ホーマイ水和剤の1000倍希釈水(消毒液)をつくり、その一部を専用の霧吹きスプレーに入れておく
- 土が冷めたら等間隔に種を置いていく。覆土はしない。
- 種の上から消毒液を吹きかける。残りの消毒液を腰水にする。
- 蓋を閉めて完了
工程をざっと挙げるとこんな感じですね。今回アガベでしたが、パキポなどの実生も基本同じです。同じというか、パキポでやった方法を同じようにアガベでもしてみただけです。なのでもしかしたら、アガベの場合こうじゃないほうが良いって事があるかもしれません。アドバイスがあれば是非コメントからお願いします。
あくまで私のやり方になりますので参考程度にお願いします。播種してから実は数日経っていますが、まだ発芽していません。さらに経過観察して発芽率なども今度追記していくつもりです。
発芽して小さい苗が産まれると本当に嬉しくて、それこそ子供が生まれたような気持ちになります。(※未婚です)その苗を360°なめるように1時間くらい平気で眺めることもできます。はたから見たら狂人ですね。
成長の過程も楽しめる実生。みなさんもチャレンジしてみて下さい。
追記
2018年の夏。今年も実生をしました!こちらも併せて是非ご覧ください。