自分展覧会に結構行くんですよと言っておきながら最近全然行けていなかったアート展。久しぶりに行ってきました。行ってきたのは「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」です。場所は六本木ヒルズの森美術館。
実は去年の9月くらいに同じ六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されていた「週間少年ジャンプ展 vol.1」を観に行って、それ以来の六本木ヒルズとなりました。
レアンドロ・エルリッヒ(以下エルリッヒ)は僕にとって思い入れのあるアーティストで、現代アートって楽しいな、面白いなと初めて思わせてくれたアーティストでもあります。エルリッヒの作品の原体験は今から12年前の「越後妻有アートトリエンナーレ 2006」で展示されていた”妻有の家“です。
レアンドロ・エルリッヒ『妻有の家』(2006年) 出典:CINRA.NET
今では本当にどこでもやってる、っていうと言い方悪いですけど、(笑) すっかりメジャーになって沢山の地域で開催されている、街や地域全体を展示会場にした”アートフェス”ですが、その走りのような存在「越後妻有アートトリエンナーレ」に初めて行ったのは第3回目の2006年でした。
このトリエンナーレは本当思い出がたくさんあって、この当時20代半ばだった私は若かったんでしょうね…なぜか東京から会場の新潟十日町市まで原付(愛車CRM50)で行ったんですよね…。ちょっとした冒険のような感覚だったんでしょうけど、いやー実際これがまためちゃくちゃ大変で、9月くらいに行ったんですが、原付なので当然高速には乗れず国道17号をひたすら北上するルートで行ったんですが、前橋辺りまではもうたった一日でTシャツから出てる腕が真っ黒になるくらい日差しが強くて暑いなーなんて思ってたら、山に入った途端に土砂降りゲリラ豪雨に襲われてずぶ濡れ。さっきまであんなに暑かったのに山に入ったもんだから今度は激寒。もうガタガタ震えながらバイク乗ってました。笑
さらに不幸は続き山道をローギアフルスロットルで走り続けてたら、
バスン!
ってう音とともについにエンジンストップ。その後100回くらいキックしてもエンジン掛からなくて、その間もザーザー雨降ってるし、一回休憩しようと思って路肩に停車。大きめの木の下で雨宿りしていたら、少し上へ登ったところに祠?ちっちゃい神社?のようなものがあって、もうここは神頼みしかねーと思って「エンジンかかりますように…」と手を合わせてお願いしたら、
ブルルルルン!
か、掛かった!オー神様ありがとう!(いやエンジン休ませたからでしょ。というのは言っちゃダメ)
その後も、いくら2ストオフ車でも原付なんで坂なんて全然登らず、30kmくらいのノロノロ運転で走ってたら猛スピードのトラックに追い越される時になんか吸い込まれるようにハンドル取られるんですよね。みんさんも自転車とかで経験されてると思いますけどあれメチャ怖いですよね!
そんな恐怖と戦いながら日か落ちる寸前の夕方くらいに十日町へ到着。濡れて寒いし、日焼けは痛いし、座ってたんでケツは痛いしでヘロヘロ。HP残り5くらい。まずは温まりたいのと、服を乾かしたいということもあって、トリエンナーレのメイン会場でもある「越後妻有交流館キナーレ」(現在は越後妻有里山現代美術館キナーレ)行きました。
ここは「明石の湯」という温泉施設が併設されてあって、まずは芯まで冷え切った体を温泉で温めようと思い入館したんですが、全身ズブ濡れの人が入ってきたもんだから完全に不審者を見るような目で見られて、入り口のスタッフの人から「何か御用で…?」と尋ねられ、
いや温泉に来たんだから、温泉に入りに来たに決まってんだろ!
と心では叫んでたんですが、HP残り5なんで「いや…温泉に…」とウィスパーボイス。
そしてやっとの思いで温泉へ。もう生き返るってこのことですね。体中に温泉が染み入ってきます。冬越しした春のコーデックスのように。(?)さて肝心のビショ濡れの服ですが、Tシャツやパンツはドライヤーで乾かせたんですがズボンの方はどうにもなりません。ランドリーとかあるかな?と思って食堂のおばちゃんに相談。そうしたら、「ランドリーは無いけど、乾燥機はおしぼり用のがあるから乾かしてあげましょうか?」と言って頂けました。
オー神様ありがとう!おばちゃんに後光差して見えましたよ。しかも宿も取っていなかったので、おばちゃんにそのことも相談したら近くの宿も紹介してもらいました。いや新潟の人はホント優しいです。最初は来たことにすごい後悔してたけど(笑)一気に新潟が好きになりましたね。
翌日はトリエンナーレを見て回ったんですけど、大地の芸術祭というだけあって700k㎡という広大なエリアに作品が点在してるんです。最初はバイクで来たことに後悔してたんですけど、一人でバイクの機動力は凄まじくかなり広範囲で沢山鑑賞できたと思います。実は3年後2009年のトリエンナーレも友達と車で行ったんですが、渋滞や駐車場の事もあって前回に比べて多く見れませんでした。バイクだったら近くにスッと停められるしその点では良かったですね。
そして肝心のエルリッヒの”妻有の家”は十日町の割りと中心街にあって、神社の境内?の公園のようなところに設置してありました。私が朝行ったら観てる人は数人しかいませんでしたが、観てた人に頼んで持っていったペトリの一眼レフ(Kyocera TDの記事にちょっと書いています)で私が窓からぶら下がってる写真を撮ってもらいました。
そうしたらたまたまお散歩中に通りかかった20人くらいの幼稚園児たちに
「見てみてー!あのお兄ちゃん面白ーい!」
とかワーキャー言われ、恥ずかしくなって足早にその場から立ち去りましたね。笑
という思い出もあり、あと観ていても楽しいし、参加しても楽しかったのでトリエンナーレで一番印象に残っていたのはエルリッヒの作品でした。その後も一昨年に金沢に行った際も「金沢21世紀美術館」に恒久展示してあって、彼の代表的な作品のひとつでもある”スイミングプール“も観ることができました。
ということですみません…余談が半端なく長くなってしまいましたが、割りと昔からのエルリッヒウォッチャーとしては今回の展示はどうなるんだろう?と興味津々でした。建築的な作品が多いエルリッヒなので、その大きなスケール感がどれだけ屋内で再現されているかがポイントになると思います。
レアンドロ・エルリッヒとは
973年、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。現在はブエノスアイレスとウルグアイ、モンテビデオを拠点に活動。
ホイットニー・ビエンナーレ2000(ニューヨーク、2000年)をはじめ、第49回ベネチア・ビエンナーレ(2001年)、第26回サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル、2004年)、リバプール・ビエンナーレ2008(イギリス、2008年)といった多くの国際展に参加、また、ポンピドゥー・センターで開催された「パリ・デリー・ボンベイ展」(フランス、2011年)にも出展。
主な個展に、ローマ現代美術館(イタリア、2006年)、MoMA PS1(ニューヨーク、2008年)、エスパシオ・フンダシオン・テレフォニカ(マドリッド、2017年)、ニューバーガー美術館(ニューヨーク、2017年)など。
国内では、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ(新潟、2006年、2012年)、瀬戸内国際芸術祭2010(香川、2010年)などに参加し、2014年には金沢21世紀美術館にて日本初の個展を開催。
実際行ってみた
森美術館は六本木ヒルズ森タワーの最上階にありますが、閉園が22:00と遅くまでやっているので仕事終わりでも行けて便利です。この日も平日の19:00くらいにいきました。
ババン!とエントランスです。最近日本でも増えているんですが、この展覧会は撮影オーケーでした。ただしフラッシュ撮影禁止や動画も1分までとか決まりがあるようです。入り口にも書いているんでちゃんとチェックして下さい。会期も約4ヶ月半とかなり長めです。
エントランスを入るといきなり暗くなっていて、最初の作品が見えてきました。プールにボートが浮かんでるように見えます。それで実際このボートもゆらゆら揺れてるんですよね。
え?ビルの中にプール作った?と一瞬驚くんですが、実はこれ水面に反射しているように見えるんですが、下に反射しているボートも実物で、わざとウネウネさせて作っています。見えづらいんですが、ちゃんとオールもウネウネしています。動力はモーター?なんでしょうか。ゆらゆら揺れてると本当に水に浮かんでいるように見えます。
これは地図みたいにある国の形になっているんですが、これが煙のように立体的に見えるんですが、実はガラス板に靄みたいなものがプリントされているんですけど、それを何層もレイヤーにして重ねるとすごく立体的に見えるんですよね。
突然現れる電車の車両の間のドア。ドアの窓から見えるのは映像なんですが、フランスの地下鉄のようです。
これはお向かいのビルの様子をブラインド越しで見ることができます。飯食ってたり、喧嘩してる夫婦がいたり色々な人がそれぞれの生活を送っています。こうやってブラインドの隙間から眺めてると気分は裕次郎?
これも面白かったですねー。サンルームのような場所が再現されていて中を覗ける窓が2つるあるんですけど、向かい側の窓は鏡なっていて、映っている人は隣の窓から覗いている人です。なので反対側には何もありません。
これわざと角度つけて隣の窓が映るようになっているんでしょうね。単純に正面の自分を映してるなら鏡なんだってすぐわかっちゃうんですけど、自分が映っていないと反対にも窓があって、誰か覗いているんだと錯覚してしまいます。
ポンと置いてあるエレベーターの扉。これは覗いている人の姿が面白いですね。なので私は覗いていません。笑 いったい何が見えたのか…
これは試着室?のような部屋がいくつもあって、迷路のようになっています。奥の部屋も椅子やカーテンが鏡に映したように対象に置かれているので、鏡なのか通れるのか一瞬わからなくなります。気をつけていかないとぶつかりそうで怖い。
こちらはバーバー、床屋さんです。これまたさっきの試着室と同じような作りで面白いんですけど、左隣りに全く同じ左右対称のバーバーが作られてあって、最初鏡かなと思ったんですけど、あれ?鏡の中に違う人がいる!?と錯覚してしまいます。奥の暖簾をくぐると左の部屋に行けるんですが、置いてあるボトルやタオル、ドライヤーなど全て左右対称に配置されています。なので係の人がしきりに「椅子以外にお手を触れないで下さい」と連呼していました。
バーバーを抜けるとドーン!と“妻有の家“と同じ大きな鏡に反射させた家です。どうやらこの展覧会用に新たに作ったらしいんですが、ちょっと大きさは小さい?かもしれません。でも屋内でこのスケールの展示は凄いですね。みんなワイワイ写真撮っていて楽しそうでした。若い女の子にとってまさしく“インスタ映え”する作品でしたね。
そのお隣には過去に展示した作品の写真と模型が置いてありました。あのスイミングプールの模型も。
展示はここで終了です。その後は森美術館の別の展示に続いていて、少ない点数ですがエルリッヒ展のチケットでそのまま鑑賞できました。
まとめ
先程も書きましたがこのスケールの作品が屋内に、しかもビルの50階以上の所に展示されてるってすごいですよね。
エルリッヒの作品は建物、部屋を実際作ってリアリティを出すものが多いので、正直どうなるのかなー?建築系の展示のように写真と模型がメインかな?と思ったらガッツリ作ってましたね。
森美術館や森アーツセンターギャラリーの展覧会は正直ミーハーなやつが多いです。笑 ただそれは全くいけない事ではなくて、その場所に集まる人たちの種類や展示会場のスケール、それを支える側のキャパなどで展示内容も変わってきます。
アートはどこか閉鎖的なイメージがあると感じてる人も多い中で、森美術館などはメジャーで取っつきやすいテーマの展示が多いと思います。
エルリッヒの作品の1番の特徴は“キャッチャーでわかりやすい”ところにあると感じていて、見ての通りスケールが大きくて、リアルと錯覚の境界線にある“既視感”を巧みに利用しているところが醍醐味ですよね。
それは特に難しい解釈や知識は必要なく、老若男女が楽しめるアートなので、森美術館のようなところが最適ですし、それをちゃんと表現できていたところは流石でした。
あと展示を観て思ったのは、エルリッヒは僕の好きな映画監督のミシェル・ゴンドリーの世界観に共通している部分が多いと感じました。ゴンドリーも既視感を利用して面白い映像作品を沢山産み出していますので、エルリッヒが映画やミュージックビデオを作っても面白い作品になりそうだなと勝手に思ってます。
久しぶりのアート展でしたがなかなか楽しめました。森美術館はチケットちょっと高めですが、同じチケットで展望台も見れますのでお得感あります。エルリッヒ展は4月までやってるんで興味のある方は是非行ってみてください。
そして3月にはいよいよ「週間少年ジャンプ展」のvol.2 90年代編が始まります。ドラゴンボールやスラムダンクや幽遊白書など僕たち世代のジャンプなので今から凄い楽しみです。