先日はじめてレコードを買おうとしている人に向けておすすめのレコードショップを紹介させてもらいました。読んで頂けましたか?読んでいない方は是非こちらから!
中古レコード屋さんに行くと、床の段ボールに無造作に置いてある100円のものから、壁の高いところに飾っている数万円のものまでいわゆる”ピンからキリまで”ありますよね。中古市場って本当に不思議ですよねぇ。
中古レコードの価格はお店によって多少の差がありますが、だいたいの”相場”が存在しています。その相場は希少性や人気などによって決まりますが、レコードショップの店主たちが集まって会議している訳ではありませんし、株式のように取引所がある訳でもありません。ある”指標”のようなものが存在しています。
それが今回紹介する本「RARE GROOVE A to Z」と「FUNK 45’s」です。
この本、特にRARE GROOVE A to Z (以下AtoZ)はずーっと探していた本で、先日オークションで見つけてやっと手に入れました。実はこのAtoZは09年に発売された前のバージョンなんですが、13年には紹介されているレコードが140枚追加されて1000枚掲載の「完全版」として発売されました。しかしその後絶版になってしまい、本自体にもプレミアが付いていて、Amazonのマケプレでは最安7000円で出品されています。そしてFUNK45’s(以下 45s)は今でも在庫があって新品が購入できます。こちらは同じ出品者が安く出品していたのでついでに落札してみました。ちなみに45’sとは45回転7インチシングル、通称ドーナツ盤のことです。
この本たちは何なのか簡単に言うと”ディスクガイド“です。ディスクガイドとは音楽レコードやCDなどを特定のジャンルや年代、または編集者たちの視点でカテゴライズして、まとめたものを紹介する本です。この類の本は今まで数え切れないほど出版されていて、現在はジャンルやカテゴリがかなり細分化されています。
今回紹介するAtoZや45sは主にDJたちの目線でまとめられていて、「全世界のDJたちはこのレコードを必死になって探しているんだぜ(いたんだぜ)」という内容なのですが、とりわけAtoZに関してはディスクガイドの役割を飛び越えて、この本に掲載されているかどうかでレコードの価格が全く変わってきます。そう。先ほど書いたように価格設定の”指標”として機能している本なのです。
レコードもそうですが、古本や古着など中古市場ってホント興味深いですよね。新品の時は価格が決まっているのに、人の手に渡った瞬間から時間が経つにつれて価値は下がっていき、誰かのリコメンドによって最初の価格以上の価値になってしまうという。そりゃそうですよね。俺はこの音楽が好きだからこれらのレコードは全部10万円!みたいにしても、その金額出しても欲しいと思う人が誰もいなければ商売になりません。たまにそういう自ら価値感を生み出していこうという男気溢れる店主の方もいますけどね。でも中古レコードの価格は正直あって無いようなものですから、レコードショップの店主にしてみればなんか押し付けのように感じてしまう一方で、とても楽なんじゃないかと思いますね。広大な海を航海する時の北極星のような存在がこの本であり、DJたちのプレイリストであったりするんでしょう。
この本で紹介されている「RARE GROOVE (レアグルーヴ)」と呼ばれるカテゴリは、まさしくそれらと同じように新たな価値を与えられて再び日の目を見た音楽たちを差しています。
レアグルーヴとは
過去の音楽を現在の価値観で捉え直す際、当時には評価されなかった楽曲の価値が新たに見出される場合がある。その楽曲は、現在の音楽(ダンスミュージック)においては、音楽面において珍しいだけでなく音源の流通という側面においても非常に珍しい(希少価値がある)存在である。このように、現在の新たな価値観で「踊れる、グルーブ感がある」ものとして発掘され、再評価を受けた過去の楽曲の事を、「珍しいグルーヴ(を持つ音楽・楽曲)」として、レア・グルーヴと呼ぶ。主にヒップ・ホップやクラブ・ミュージックの分野で多用される用語である。元々は1985年に、Kiss FMのDJである、ノーマン・ジェイ(Norman Jay)の番組The Original Rare Groove Showを通して紹介された事で知られる。
「過去の音楽」といっても広範かつ様々であるが、代表例として挙げられるのは1970年代にアメリカを中心に、ヨーロッパ、ラテン・アメリカ、アフリカで発表された、現在では比較的珍しく、入手困難なファンク、R&B、ジャズ・ファンク、ソウル、ソウル・ジャズ、アフロビート、ラテン音楽、ジャズ、クロスオーバーなどである。無論、過去の音楽は、現在有名になった音盤以外にも、レア・グルーヴとして見出される可能性を秘めた音盤が存在する。通常ダンスミュージックとして見られていない音楽であっても、レア・グルーヴとして発掘され、ダンスミュージックとして再評価される事がある。
引用:Wikipedia
正直わかるようなわからないような…。これを本気で説明しようとすると、Wikiにも書かれているノーマン・ジェイやジャイルス・ピーターソンのことや、ディープファンク、HIP HOP DJのサンプリングソース等々様々な視点が必要で、一方向からはなかなか語るのが難しいカテゴリです。
私自身もソウル・ファンクなどを聴き始めたのが最近なので偉そうなことは言えませんが、私の解釈では「カテゴリとしてのレアグルーヴ」と「現象としてのレアグルーヴ」の2つがあって、今まで先人たちが発掘してきたもの、いわゆるAtoZに掲載されている音楽たちは「カテゴリとしてのレアグルーヴ」で、「現象としてのレアグルーヴ」は今も尚掘られ続けていて、見向きもされなかった音楽に新たな価値を与えるという本来の意味でのレアグルーヴのことで、それは現在進行系で語られるものではないかと考えています。最近は”和モノ”と呼ばれる国産のジャズやファンクが再評価されており、それらは後者に当てはまるだろうし、各国・各地域の名も無きミュージシャンが録音した音源もこれから誰かに発見されて、それらが未来のレアグルーヴとなるんでしょう。
実際の本の内容をチェック
それぞれの表紙です。2冊とも同じA5サイズで、プリントがAtoZはフルカラーで45sはモノクロです。
AtoZの編集ですが、その名の通り単純にアーティストをAからZまで並べているだけです。でもまず最初に「Classics」というコーナーがあって、レアグルーヴの中でも有名なレコードがまとめられています。その後は目次のようにAtoF、GtoL・・・とあって、その間にインタビューやコラムが挟まれている構成です。
私も先日Billy Wootenの09年のP-VINEリイシュー盤をゲットしました!これを盤で聴けるなんて最高です。自分のは高値ではなかったんですが、Mintならリイシューでもプレ値付いていますよね…。
そしてレアグルーヴというだけあって、レコード(オリジナル)のレア度が写真のように3段階で掲載されています。
そしてキングオブディギンこと「MURO」さんと、15年に亡くなったブッダブランドの「デブラージ」さんのインタビューが掲載されています。MUROさんがおすすめしている”金田一耕助の冒険”は今じゃえらいプレミア付いていますね。
その他にもこんなコラムが掲載されています。「ジャケ違い鑑定団」は面白かったですね。今だとDiscogsでカタログナンバーを検索できたりしますが、リイシューでデザインが大幅に変わってたり、凄い微妙な違いしかなかったりするものもありますからね。
こちらは45sで、編集はアメリカの州・地域別でまとめられているのが特徴です。それぞれアーティストの出身やレーベルの所在地によってそれぞれ特徴・個性があります。ソウル・ファンクの世界では、7インチはとても重要な存在ですよね。
一番面白いのが元祖キングオブディギン「DJ SHADOW」のインタビューですね。購入したばかりでまだ全部読んでいないのですが、興味深いエピソードが沢山で読み応えあります。そしてまたもや日本代表のMUROさん。
巻末のコラムは、掲載されている楽曲のコンピレーションディスクガイドです。レアなレコードは手に入りづらいので、まずはコンピを買って聴いてみるのも良いですね。
AtoZはリットーミュージックから出版されており、定価2500円です。45sはK&Bパブリッシャーから出版されていて、定価2200円です。
まとめ
今回はディスクガイドを紹介しました。AtoZに関して中古レコードの価格を過剰に高騰させている原因になっているのではという指摘もあっていまだ賛否両論あります。確かにそういう側面もありますが、私はソウル・ファンクを聴き始めたのが最近なので単純に勉強になりますし、読み物としても面白いです。まぁどちらの本もかなりコア情報なので付いていくのがやっとな感じですが…。
70〜80年代当時のソウル・ファンク・ジャズのアーティストやレーベルの情報、それと90年代〜現在のDJたちのMIXやサンプリングネタ等々勉強してから読むとさらに楽しく読めるのかなぁと感じました。
ただ45’sは04年、AtoZ(旧版)は09年発行なので、コンピの情報やインタビューで語られていることなど、現在とタイムラグがあるのでその点は注意が必要です。
今はYoutubeにアーカイブされていない楽曲は無いんじゃないか?と思うほどレアな音源でもアップされているので、これを読みながら気になったらYoutubeで楽曲を聴いてみるっていうことをやっています。こうやって読んでみるとまだ知らないレコード・音楽がたくさんあることに気付かされます。この記事を書いている間にも全世界のディガーたちはまだ聴かぬ音源を掘り続けているんでしょうね…。