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インドネシア発🇮🇩シティポップバンド “IKKUBARU(イックバル)”から考察するリバイバルの波

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ikkubaru201706
画像出典:SIMONSAXON

今現在中古レコード市場は70~80年代の日本のフュージョン、ファンク、シティポップなど、通称”和モノ“と呼ばれるジャンルの勢いが凄い。

上の記事はドーナツマガジンの「ELLA RECORD」のオーナーの方のインタビューだが、時流的に和モノのラインナップは外せないと言っている。

さらに私も大好きな下北沢のレコードショップ「フラッシュ・ディスク・ランチ」でも最近和モノを1ジャンルとしてコーナーを設けているようで、「あのFDRでも!」と驚いたのを覚えている。

そんな中でレコードショップの「JETSET」が20周年の記念ノベルティ企画というものを行っているのを偶然見かけた。何組かのアーティストがJetset限定の7インチを制作したということで、アーティストを確認していたらある1組のバンドの紹介文に目が止まる。

2011年12月24日、インドネシア・バンドゥンにて結成。山下達郎、角松敏生など、おもに80年代の日本のシティ・ポップと呼ばれるジャンルに感銘を受け、自分たちの解釈でシティ・ポップを表現するために活動を開始。

出典:JETSET

インドネシアでシティポップ?なかなか聞き慣れないワードの組み合わせに驚いたが、それが“Ikkubaru (イックバル)”という4人組のバンドだった。

興味を惹かれた私は早速Youtubeで検索し、「amusement park」という楽曲を聴いてみた。

小気味良いカッティングギターにキラキラのシンセ、そして疾走感のあるリズム。歌詞は全編英語だがハイトーンのボーカルは山下達郎の影響なのだろうか。確かにシティポップの”それ”になっている。実はこの楽曲2015年に発表されていて、今から3年前の楽曲なのだ。

感度の高い音楽ファンには既に周知されていたのかも知れないが、私はインドネシアにこのようなバンドが存在しているとは全く知らなかったし、もちろん想像すら出来なかった。

興味深いのは山下達郎や角松敏生に影響を受けたインドネシアのバンドが日本でも活動しているという点だろう。俗に言う(ジャンルの)逆輸入だ。

まさに中古レコード市場にも同様の現象が起きていて、山下達郎やシュガーベイブ、竹内まりや、大貫妙子などのレコードが海外のバイヤーにタイムカプセルのように掘り返され、これらのアーティストのレコードには高値が付いている。海外の評価を経由し、日本でもブームとなっている。

この和モノリバイバルブームを大きく2つの点で考えてみた。

その1つは中古レコードのマーケットについてと、2つ目は音楽的なリバイバルの流れだ。さらにそこから2つの要素に分かれ、先述した逆輸入若者による前世代の音楽への回帰についてである。

1. 中古レコードマーケット

まず中古レコードマーケットとして考えると、和モノは日本の音楽であるので流通している数は当然多い。さらにはジャンルがポップスなので、例えばジャズのコレクターでなどではなく、一般的なリスナーが所持している。なので手放す時も二束三文で売られるので欲しい人にとっては安価に手に入れることができる。

簡単に言うと数があって安く仕入れられるが、売る時は需要が高いので高値で販売できる。

なのでレコードショップとしては利益率が高い和モノは収益の柱になり得る商材なのだ。となると、どこのレコードショップでも和モノが一定のスペースを陣取り、それがリバイバルブームをさらに後押しする結果となる。

ただもう今は掘り尽くされ、ある程度の評価や相場も定まり、有名な盤に関しては買取の段階で相応の価格が提示されているようだ。

diskunionでもシュガーベイブ「SONGS」の帯付きは¥20,000の買取価格が付いている。(2018年10月時点)  中古レコードビジネスにおいても和モノは今や市場を引っ張る存在になっていると言えるだろう。

2. 音楽面

次に音楽的側面についてだが、まずは「和モノ」というジャンル、リバイバルの流れが出来た素地を紐解いていこう。(私の知識と記憶がベースになっているので正確性の保証はできないが…)

ノーマン・ジェイジャイルズ・ピーターソンが70年代のソウルやファンクを再評価した「レア・グルーヴ」ムーブメントがあったように、和モノも00年代にKing of  Diggin’ことMURO須永辰緒らが、名もなき日本の古いジャズ、フュージョン、歌謡曲などにスポットを当てていったのが発端ではないだろうか。

私が持っている初代の「レア・グルーヴ AtoZ」のコラムに2009年時点でMUROが和モノClassicsとも呼べる有名な「横溝正史ミュージック・ミステリーの世界 金田一耕助の冒険」を紹介していた。その後2015年に「和モノ AtoZ」が発売されて和モノというジャンルが確立されていった。

なので当初和モノはシティポップという括りではなく、レア・グルーヴの流れを汲んだものだったと理解しておいて欲しい。

2-A. 逆輸入

話は戻り、音楽的なリバイバルの流れだが、まずは先述した逆輸入である。その最たる例が、テレビ東京で放送されている「Youは何しに日本へ」という番組で、2017年に大貫妙子のアルバム「Sunshower」のLPを探しに来たアメリカ人に密着する回があった。

その放送が反響を呼び、その後Sunshowerを含むアルバム数枚が再発され、この放送をきっかけにレコード自体のブーム、外国人が日本の古い音楽を求めているという事実がお茶の間レベルにまで知られる結果となった。

ちなみにこのアルバムは、バックを固めるメンバーが豪華でアレンジが坂本龍一、ドラムにクリス・パーカー、ベースは細野晴臣、バックコーラスを山下達郎が担当している。海外のバイヤーにとって、制作陣もこのアルバムを評価するポイントになっているそうだ。

そして先程の「金田一耕助の冒険」も初めは海外のトラックメイカーがサンプリングネタとして使っていた事がフィーチャーされるきっかけとなったので、こちらも逆輸入と言える。

このように海外のレコードショップやマニアは常に未だ日の目を見ない音楽や、忘れ去られた音楽を掘り起こし続けている。そういった人々のアンテナに掛かった音楽がフィーチャーされ、その評価が回り回って本国の日本でも影響を及ぼす状況になっている点が興味深い。

2-B.若い世代による前世代の音楽への回帰

ここ数年の日本の音楽はどことなく懐かしい雰囲気を持った曲が多いように感じる。例えば車のCMからブレイクしたSuchmosの「STAY TUNE」やNever Young Beachの「明るい未来」などは顕著で、Suchmos本人たちはアシッドジャズに影響されてたと語っているが、AORや渋谷系と通ずる部分も多く、Never Young BeachはもうまさにフォークやGS(グループサウンズ)からの影響が見て取れる。


じゃあ当時を生きた紳士淑女のノスタルジーに直接訴えかけるものなのかと言えばそうではなく、しっかり今の時代感や彼らの感性でアウトプットされているように感じる。そこはバンドのセンスによるものなのだろう。

もう一組紹介すると、ダンスミュージックのプロデューサーで、Roland MC-909というグルーヴマシンを駆使してライブを行うDorianだ。

2010年に発表した「Morning Calling」のPVは完全に80年代をパロディ化しているが、音は大真面目。曲中にディスコ、シティポップの要素がこれでもかと盛り込まれているが、今聴いても古さを全く感じない。8年前、初めて聴いた時は本当にセンスが良いなと唸った記憶がある。

もちろん先述したイックバルもそうだしかも彼らの場合は若い世代というフィルターの他に、外国人というフィルターも持っている。約30年前に流行したシティポップが、その2つのフィルターを通過し、現代の日本で鳴っている。

 

このようにイックバルというバンドを知ったきっかけに、今起きているリバイバルブームについて私なりに考えてみた。

今やダウンロードやストリーミングなど、簡単に音楽が手に入る時代。その反動でレコードやカセットなどの”アナログ回帰”の波が世界中で起こった。それと同じように、音楽的にも少し前まで速いビートに電子音やデジタルエフェクトが掛かったダンスミュージックが流行していたが、その揺り返しで人の温もりや暖かさのようなものを求めるようになり、今のミュージシャンたちはその機運に敏感に反応し、それがシティポップなどかつて流行した音楽という形で表現されているのかも知れない。

そういった背景には、30〜40年前に魂を込めてクオリティの高い作品を残していった先人たちの功績も忘れてはならない。