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DJターンテーブルのデファクトスタンダード Technics SL-1200シリーズから最新型 “SL-1200 MK7″がついに発表

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画像出典:Tecnics Official Instagram

特定の分野において、ユーザーが数ある製品の中から優れたもの、自分に合ったものを選択し使用する。よって製品を開発するメーカーはより良いものを作ろうと努力する。そのおかげで競争が生まれ、さらに良いものが世に産み出される。

至極当たり前の事だが、そんな中でも圧倒的に優れ、圧倒的に支持を得ている製品・技術が誕生した場合その秩序は崩れ、競争は起こらず、その製品や技術が一般化し事実上独占状態のものを“デファクトスタンダード”と呼ぶ。

DJ機材の根幹「ターンテーブル」、すなわちレコードプレイヤーにそのデファクトスタンダードが存在している。それがTechnics SL-1200シリーズだ。

Technics SL-1200シリーズがDJ達に愛される理由

ミュージシャン、レコード愛好家、もちろんDJは当然のようにその存在を知っていると思うが、触りだけでもおさらいしよう。

日本の家電メーカーパナソニックの音響機器ブランドTechnics(テクニクス)から1972年に初代SL-1200が発売された。当初はDJ機材ではなく、一般的なリスニング用のプレイヤーだった。

それがなぜ世界中のDJ達に愛されるようになったかというと、まず1つがダイレクトドライブということだ。

ターンテーブルの駆動方式は大きく分けてベルトドライブとダイレクトドライブの2つ。ベルトドライブはプラッター(レコードを乗せる台)の軸をモーターと変速機で繋がったゴムベルトで回転させる。

元々モーターは低速で回転させる事が苦手で、コギングと呼ばれる微細な振動が起こり音質に影響を与えてしまう。そのためモーターを高速で回転させ、ベルトで繋がった変速機で回転数を調節するのがベルトドライブの仕組みだ。しかし、技術が進歩しコッキングが少ないモーターとサーボ技術が開発され、モーターと回転軸が直結したダイレクトドライブが誕生する。

ダイレクトドライブの利点は、モーターと直結しているため回転する力「トルク」が強い。

DJは2枚のレコードのテンポを合わせて曲を繋いでいくのだが、キューイングと呼ばれるビート(拍)の頭を合わせるために、レコードを直接手で操作し、再生・停止を繰り返す。

その際せっかくテンポを合わせたのに、再生がもたついたらビートの頭がズレてスムーズな繋ぎができない。なのでDJたちにはトルクが強く、曲の立ち上がりが早いダイレクトドライブのターンテーブルを使用しているのだ。

さらに当時のリスニング用のプレイヤーは筐体をウッドの枠で覆うものが多く、その点SL-1200はアルミダイキャスト製で製造されており、コンパクトで堅牢だった。DJのスクラッチなどハードな使用にも耐え、故障も少なかったという。

またインシュレーター(振動を抑える脚)を搭載していたので、大音量のクラブでもハウリングを起こしにくかったようだ。

そういった理由でSL-1200はDJ達に使われる事となる。当時の開発陣はNYのクラブへ赴き、現地のDJ達に使い勝手や直して欲しい点などをインタビューしていたという。

そのようにしてDJ達に寄り添い、マイナーチェンジやアップデートを繰り返してSL-1200 MK1からMK6まで発売された。その後は世界中のクラブに設置され、1972年から2010年の開発終了まで全世界の累計販売台数は350万台に上る。SL-1200は文字通りDJターンテーブルのデファクトスタンダードとなった。

Technicsの衰退と復活

そのSL-1200だが、レコードの需要減やDJ機材にPCを使う事が当たり前になってしまい、2010年にTechnicsブランドが消滅。それと同時にターンテーブルの生産を終了してしまう。時代の流れと共に、デファクトスタンダードの地位を他の機材譲ってしまった。

しかし時は経ち、SL-1200を待ち望む沢山の人々の要望によってTechnicsブランドが復活。2016年3月に限定モデル「SL-1200GAE」、4月に「SL-1200G」を発売した。

 

待ちに待ったTechnicsブランドの復活とあって、全世界のファンたちは喜んだかと思いきや、実はそうではなかった。限定モデルとして発売された「SL-1200GAE」は定価¥330,000、その後発売された一般モデル「SL-1200G」も同じく定価¥330,000と、SL-1200はDJユースの製品から完全に高級オーディオのカテゴリーになっていたのである。

これには待ち望んでいたファンたちも肩透かしを食らった。シリーズ最終モデルだったSL-1200 MK6は定価¥79,800という価格を考えると実に4倍近い。Technicsもそのブーイングを感じてか、その後2017年3月にその廉価版と言える「SL-1200GR」を発表。価格は半額以下の¥158,000になった。

ただ、DJをやってみたいと思う若者が2台で30万円のターンテーブルを果たして買うだろうか?ここにミキサーなどを足すとかなり大きな出費になってしまう。

MK6であれば2台で16万円なので、安いミキサーと合わせれば約20万円。バイトを2~3ヶ月すればなんとか手が届く範囲だろう。やはりクラブカルチャーは若者がリードするものであって、そこには高価な機材はマッチしないと私は考える。

SL-1200 MK7

さて話は本題に戻るが、1月7日にラスベガスで開催された「CESトレードショー」にて”Technics 7th”というイベントを行ったのだが、そのイベントの中でMK6の後継機「SL-1200 MK7」が2019年の夏に発売することが発表された。

画像出典:Tecnics Grobal

今回はSL-1200″G”の付いたシリーズではなく、MK6の系譜を継ぐMK7とあって期待値が一層上がっている。

今回のアップデートされた点は、新開発されたコアレスモーターの採用により微振動が抑制されたこと、そして起動トルクやブレーキスピードの調整機能、逆回転再生機能などが新たに追加された。これらは完全にDJユースを意識した新機能だろう。

そして地味だが電源ケーブルとフォノケーブルが脱着式に変わったことは大きいと思う。以前から問題とされていて、ケーブルを脱着式に改造する業者も存在していたので、大きなアップデートだろう。

逆に変わらないところは、サイズやボタンレイアウト、プラッターの慣性質量(回転の強さのことだろうか?)がMK6を踏襲しているとのこと。要するに「操作性はMK6と変わらないですよ」ということだ。

さて肝心の価格だが、まだ発表されていない。一部の報道では$1200以下になるということだが、果たしてどのくらいの価格帯に落ち着くのだろうか。限りなくMK6と近い価格だと若い世代は手が出やすいはずだ。

画像出典:Tecnics Grobal

さらに、DJに限らず幅広いユーザー向けに「SL-1200C」という機種も同じく2019年の夏に発売すると発表された。

こちらはピッチコントローラーや、スタイラスライトなどは搭載されていないが、フォノイコライザーアンプを内蔵しており、カートリッジもOrtofon「 M2 REDフォノカートリッジ」が付属しているので、DJミキサーやフォノアンプを持ってなくても、買ってすぐにスピーカーと接続すれば使用可能だ。

こちらも価格はまだ発表されていないが、MK7と同価格帯になるのではないかと予想されている。


かくいう私もTechnics SL-1200のユーザーだ。

私がターンテーブルを購入を考えていた時期はすでにSL-1200の生産は終了していて、SL-1200を購入する際は必然的に中古を選ぶしか他ない。他のメーカーから出ている新品のターンテーブルも考えたのだが、やはり堅牢性や安定性、何より”世界中のみんなが使っている Technics SL-1200“という安心感・信頼感が一番大きかったように思う。

結局中古の手頃なSL-1200 MK3Dを購入したのだが、前オーナーがリスニング用として使っていたため、とても状態の良い物を手に入れることができた。発売から10年以上経った今でも故障する気配も全く無く、ほぼ毎日のように元気にレコードを回し続けている。

Technics SL-1200は私の生活の一部と言っても過言ではない。